人間作業モデル(MOHO)の学び方

僕は,学生の頃に師匠の山田孝先生が訳されたMary Reilly先生の論文を読んで,作業行動とその実践モデルである人間作業モデルに強い関心を持ちました.

何とか人間作業モデルを使えるようになりたいと思い,僕なりにこのモデルを学んでいきました.

最近,「どうやって人間作業モデルを学んだのか」と聞かれることが増えましたので,僕が学んできた方法を簡単にまとめておきたいと思います.

(1) 講習会に参加する

まず最初は,日本作業行動研究会主催の人間作業モデル講習会への参加は外せないと思います.

人間作業モデルの本は,分厚いうえに,概念も難しいので,最初から自分で読みすすめるのは骨が折れる,と感じられる方が多いようです(僕も最初はそうでした).

講習会では,山田孝先生を中心とした講師陣が,人間作業モデルを理解するうえで欠かせない中心概念を,事例を通してわかりやすく説明してくださいますので,はじめて人間作業モデルを学ばれる方もとっつきやすいと思います.

僕は,はじめて人間作業モデル講習会に参加したときは,あまりのわかりやすさにこれまでの自分の疑問をなんとか氷解させようと質問しまくった記憶があります^^;

少なくとも当時の僕にとっては,それぐらい理解を助けてくれるものでした.

(2) 事例検討会に参加する

次に,人間作業モデルの事例検討会に参加する,という方法がお勧めですね.

実際,概念を理解しても,それが即座に実践への応用するスキルへと結びつくわけではありません.

たとえば,自転車を乗りはじめた頃のように,何度も何度も練習することが求められます.

とはいえ,最初はどう練習していいかわからないものです.

事例検討会は,既に人間作業モデルを活用されている先生方が,経験に根ざして具体的にやりとりしてくれますので,どうすれば人間作業モデルを使えるようになるのか,また人間作業モデルを実践へ応用するにはどのようなスキルが要求されるのか,を効率的に学ぶことができる,と少なくとも僕自身は思います.

人間作業モデルを活用する「コツ」がつかめそうだな,と思ったら,次は自分自身の臨床で試行錯誤しながらやっていけばいいわけです.

最初は,それでもうまくできないこともあるかと思います.

そうしたときは,やはり事例検討会を活用することができると思います.

どのような事例に対して,どこまで人間作業モデルに根ざした作業療法実践ができたのか,そしてどこでどうつまづいたのか,そのつまづきを自分はどう克服しようとしているのか,他にどのような方法を考えているのか,などの観点から状況をまとめ,事例検討会で発表したり,もしくは顔なじみになった参加者に相談してみてはどうでしょうか.

なお,事例検討会に参加してから発表という流れでなくともよい場合もあると思います.

僕自身がそうでしたが,人間作業モデル講習会に参加し,実践で試行錯誤してからその結果を持って事例検討会に初参加する,というやり方でもよいと思います.

なお,僕の感度からすれば,事例検討会をどう活用するにしても,どのみちプロの世界ですから,反復練習なしで人間作業モデルを活用できることはまずない,と思っていていいと思います.



(3) 実際に使う

当然のことながら,講習会,事例検討会に参加したら,実際に使い込んでみる経験が,人間作業モデルを活用できるようになるうえで避けて通れません.

もちろん,最初は,すべての担当クライエントに人間作業モデルを適用する必要はありません.

最初は,あえてうまく使えそうなクライエント(たとえば,自分の作業についてよく話してくれそうな方,やりたい作業が明確に決まっている方など)に人間作業モデルを使い,成功体験を積むといいかもしれません.

また,これまで作業療法がうまくいかなかったクライエントに用いてみるのもよいでしょう(僕はこのパターンでした).

うまくできないこともあるでしょうが,「プロの世界ですから甘いわけない」と腹をくくっておきましょうね.

それでもめげずに少しずつ経験を積んでいくことができれば,人間作業モデルを活用できるスキルが養われていくはずです.

(4) 事例報告を吟味する

(1)~(3)とは別の方法として,既に公表された事例報告を徹底的に活用するというものがあると思います.

僕の経験上,そのやり方は2パターンがあると思います.

第一に,人間作業モデルに根ざした事例報告を利用する方法です.

どのような事例に対して人間作業モデルは適用されたのか,その事例に対してどのような評価が使われたのか,筆者は評価結果をどうリーズニングしたのか,そのリーズニングに根ざしてどのような介入プログラムが立てられたのか,介入プロセスではどのようなことが起きたのか,介入成果はどのようなものだったのか,を中心に読みこんでいくと理解がすすむと思われます.

第二に,人間作業モデルに根ざしていない事例報告を利用する方法ですね.

たとえば,生体力学モデルや精神分析モデルを使ってまとめられた事例報告を読みます.

次に,人間作業モデルの観点から,その事例報告を読みこんでいきます.

その際,提示された事例は人間作業モデルの観点からどう理解することができるか,またその理解に基づけば介入プログラムはどう変わるだろうか,さらにその事例に対して人間作業モデルを使うならば自分自身はどのような評価を,どのような理由から追加するのか,を中心に吟味していくとよいでしょう.

人間作業モデルが使われていない事例を,人間作業モデルの観点から読みとくわけですから,第二の方法は第一の方法よりも困難さが伴うかもしれません.

しかし,自分自身の人間作業モデル的思考力を養うには,もってこいの方法です(僕は一時期,この方法で人間作業モデル的な発想を鍛えました).

(5) 事例報告から逆算する

(4)の方法とも若干関連しますが,この方法は事例報告の介入プログラムしか読みません.

つまり,介入目標と介入計画のみ読むのです.

具体的には,人間作業モデルに根ざして実践された事例報告を入手し,事例報告の介入目標と介入計画を読みこみます.

次に,その介入目標と介入計画を正当なものであるとするならば,どのような評価結果が,どのような評価法によって得られたと想定されるか,を洞察していくのです.

わかりやすくするために算数を例にして説明してみますね.

通常,足し算を学ぶ時は,「1+1=?」という式が提示され,「?」に入る数字を言いあてようとしますよね.

ところが,「?」に入る「2」という結果は,「1+1」以外でも導きだすことはできますよね(たとえば,「3-1」など).

つまり,「?+?=2」の方が格段に豊かな回答が要求されるわけです.

僕の感度からすれば,「1+1=?」のみで足し算を学ぶよりも「?+?=2」も解きながらの方が,算数の実践力は上がるような印象があります.

なので,人間作業モデルを学ぶときも,(4)の方法のように事例報告を読みとくだけでなく,解答(介入目標と介入計画)から逆算的に想定されるだろう評価方法と評価結果を導きだす訓練を行えば,よりうまく人間作業モデルを活用できるようになるのではないか,若かりし頃の僕はそう考えて独習していたのですね(実際にやってみるとこれがなかなかおもしろくて,一時期,暇さえあればこの方法で思考実験していました).

とりあえず,僕が行ってきた方法は以上です.

もちろん,上記の方法を試したからといって,必ず人間作業モデルを活用できるようになる,とは限りません.

しかし,挑戦してみるだけの価値が,人間作業モデルにはあるでしょう.

ぜひ頑張ってみてください.