作業療法士養成校で働くすべての皆さま「ダウンサイジング」しませんか?

これからも増え続けると予想される日本国民の作業機能障害を改善するためには,優秀な作業療法士を育成し,持続的に社会へ供給していく必要があります。

作業機能障害は人々の健康だけでなく,幸せな生活をもむしばむものであり,社会の活力をそぎ落とす問題です。

誤解を恐れずに言えば,作業機能障害の改善に直接役立つ方法として開発されたのは,作業療法だけです。

凋落の激しい現代日本の再生を考えても,日本国民の作業機能障害をしっかり改善できる優秀な作業療法士の育成は喫緊の問題です。

ところが,作業療法士は日本国民一般に広く知られていないうえに,作業療法士養成校(専門学校,大学)の多くは定員割れの憂き目にあっています。

そのため,受験生に人気のある養成校を除いて,優秀な作業療法士の育成という課題の達成が年々難しくなりつつあるのではないでしょうか。

人によっては,市場原理の淘汰圧にまかせて粗悪な養成校は消えさり,良質な養成校は残ればよい,と言う人もいます。

しかし,これは2重の意味で間違っています。

まず,市場原理は「自由競争」という原則によって,その健全性が担保されます。

つまり,自由競争によって良質なものだけが市場に選ばれ,社会が発展していくというわけです。

しかし,作業療法士養成校は厚生労働省(専門学校)や文部科学省(大学)によって徹底的にコントロールされており,自由競争という原則のもとに置かれていません。

かりに,作業療法士養成校が自由競争を保証されているならば,臨床実習がいっさいない養成校や臨床実習ばっかりの養成校がでてきてもおかしくありませんが,そんなことはそれが作業療法士養成校である限りにおいて絶対に起こりえません。

つまり,市場原理の健全性が担保されていない。

したがって,作業療法士養成校において市場原理は健全に機能せず,その淘汰圧に任せていけば良質な作業療法士養成校が残るどころか,作業療法教育そのもののが荒廃することさえも考えられます。

次に,このまま市場原理によって,多くの作業療法士養成校が淘汰されていったとしましょう。

すると,どこか特定のところでのみ作業療法士の育成が行われることになります。

つまり,受験生が作業療法を学習できる機会と環境が偏在するという事態が起こります。

そもそも,これだけ多くの作業療法士養成校が設立されたのは,学校経営者にとってそれが受験生集めに役立つ(金儲けになる)という理由だけでなく,日本国民の健康問題,生活問題,社会問題である作業機能障害に対処できる作業療法士を特定の地域に偏在させず供給しようという社会的使命があったはずです。

作業療法士養成校の多くが市場原理で淘汰されたら,この社会的使命を果たせなくなる恐れがあります。

しかも,(市場原理の健全性がまったく担保されていないがゆえに)そのときには作業療法教育が荒廃している可能性がありますから,数少ない作業療法士養成校で決して良質とは言い難い作業療法教育が施されることも考えられます。

それでもなお,市場原理という不健全なシステムに作業療法教育の未来を委ねてもいいと考えるようであれば,ほどんどマンガです。

では,どうしたらいいのでしょうか?

市場原理という不健全な淘汰圧にあらがうためには,18歳人口の減少にあわせて全国の作業療法士養成校の入学定員そのものを減少させる,という方法しかおそらく対策はない,と僕は考えています(定員のダウンサイジングというアイデアは内田樹さんの議論から継承したものです)。

現在,18歳人口はピーク時に比べて4割減です。

これに平行させるかたちで,作業療法士養成校の全入学定員を減少させるわけです。

日本作業療法士協会ニュース(2009.4.15)によれば,全入学定員数は7606名です。

ここから4割減らせば,約4564名が全入学定員数になります。

もちろん,この議論は作業療法教育の質と社会的使命を守るという観点に立って展開していますから,この削減はすべての作業療法士養成校が負担するものです。

しかし,全入学定員数が今の4割減になれば,それぞれの養成校で優秀な学生を選べることになりますから,全体として優秀な作業療法士を育成しやすくなるはずです。

つまり,日本国民の作業機能障害の低減に,しっかり役立てる作業療法士を供給しやすくなる。

そうなれば,日本国民の健康状態,生活状態,社会状態は改善するでしょうし,作業療法の価値も認めらやすくなるでしょう。

(かなり単純化して考えていますが)まさに良いことずくめです。

ただし,学生数が減るわけですから,教員の給与面は現状よりも悪くなるでしょう。

それは確かにつらい。

だから,それ以外の待遇を良くすることによって,作業療法教育者の後方支援を行えばいいのではないか,と思います。

具体的には,研究日を増やす,授業や学生指導がない日は学校に来なくてもよい,会議の時間と数を減らす,などです。

つまり,金は多少減るけども自由は増える,というかたちにする。

このように給与面以外の待遇を良くすれば,市場原理という不健全なシステムに作業療法教育が荒らされ,日本国民の作業機能障害の低減という社会的使命をまっとうできないぐらいなら,給与が多少下がってもいいから優秀な作業療法士を育てたい,という志の高い作業療法教育者は少なからず存在するはずです。

上記のような案に対して「机上の空論だ」と笑う人もいるでしょうけど,他の人もこれといった良案を持っているわけではないでしょうから,僕はぜんぜん気になりません。

作業療法士養成校で働くすべての皆さま,ダウンサイジングの有効性と可能性を一度は検討してみませんか?

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