第8回高知県作業療法学会「原点回帰-新しい価値観を創造するために」

基調講演:構造構成主義で切りひらく作業療法の未来

登壇者:京極 真(社会医学技術学院)

日時:平成22年2月14日(日) 9:10から10:40

場所:土佐リハビリテーションカレッジ

以下,抄録原稿です。

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構造構成主義が切りひらく作業療法の未来

京極 真(社会医学技術学院 作業療法学科)

いまそこにある危機


止まる気配すらない医療と介護の同時崩壊、加速する人口減と超高齢化社会の同時進行、縮小しつづける市場規模など。私たち日本の作業療法士は、他国の作業療法士が経験したことのない難題にいままさに直面しつつある。その先に、日本の作業療法士を待ち構えるのは「暗いユートピア」か、それとも「明るい地獄」か? 日本の作業療法に「希望の未来」はあるのか? 

求められる思考の自立

従来、日本の作業療法士は、作業療法先進国の動向に追従するようにして発展してきた。日本の作業療法は、作業療法先進国から数十年ほど遅れていると考えられてきたこともあり、この戦略は極めて妥当で機能的だったし、今後も一定の成功をもたらすと考えられる。

しかし、上述したように、作業療法先進国ですらも未体験ゾーンの問題群に、私たち日本の作業療法士は突入しようとしている。これはつまり、作業療法先進国に追随する従来型の戦略のみでは、うまく対処できない可能性があることを示している。

こうした危機を前にして、私たちに求められている課題は「思考の自立」である、と私は思う。すなわち、私たち自身の問題として作業療法の未来を考え、いまそこにある危機を好機に変える作業療法のビジョンを私たち自身が考えだす必要がある、ということだ。

したがって、私たち日本の作業療法士の課題は、作業療法先進国の動向をいち早くキャッチアップすることと、いまそこにある危機に対処するためのビジョンを自ら考えだすこと、の2つがあると言える。特に後者は、私たちにとって慣れない課題であるため、極めてチャレンジングなものになるだろう。

思考の方法論としての構造構成主義


ところで、意外に盲点となりがちだが、自立した思考を行うためにはそのための方法論が必要である。思考の方法論を持たなければ、非常に稀な大天才を除いて、未曾有の難題にどう向き合えばよいかわからず、新たなビジョンの創造を果たせないためだ。

では、思考の方法論とはどうすれば入手しうるのか? 結論から言えば、それは哲学に求めることができる。哲学と一言で表してもその内実は極めて多様だが、ある意味において哲学は思考の方法論を研究開発する領域であると言える。

哲学は2000年以上の研究開発歴を経て、思考の方法論の宝庫にまで深化したが、その中でも特に重要だと思われるのが、新進気鋭の哲学者・心理学者の西條剛央が体系化した構造構成主義(structural constructivism)である。構造構成主義という思考の方法論の特徴の1つは、特定の関心のもとで深く強く考えていけば誰もが了解できる可能性の理路を構築しうる点にある。そして、構築された理路は、自由で開かれた言語ゲームにのせることで、年月をかけて鍛えられたり、うち捨てられたりしていくことになる。(もちろん、この過程では、血の滲むような洞察が求められるが)構造構成主義はこの特徴によって、開発後わずか数年で数十の領域で思考の原理として継承されるようになったのだ。

作業療法を構造構成主義する

本学会のテーマは、作業療法の原点回帰と新しい価値観の創造である。このテーマにそくして構造構成主義的思考を徹底させれば、作業療法の原点と将来展望を念頭におき、冒頭で述べた様々な難題にさらされてもなお、継承できるだけの耐久性を持った作業療法の価値観を明瞭に取りだしうるだろう。では、どのように考えていくことによってそれは可能になるのか?

そのポイントの1つが構造構成主義の中核原理である「志向相関性」だ。志向相関性とは、意味・価値・存在は志向(関心・目的・欲望・身体)に相関的に規定される、という理路である。これを思考の方法論として用いる場合は、現時的制約を考慮しつつ、特定の志向のもとで意味・価値・存在が規定される諸条件を解明していくことになる。その場合、冒頭で述べた様々な難題を踏まえつつ、「作業療法はそもそも何のために創られたのか?」という問いのもとで洞察を深めることが重要になる。それにより、新しい時代に応じた作業療法の(古くて新しい)価値観を明瞭にすることができるためだ。

では、日本の作業療法士を待ち構える難題に耐えうる作業療法の価値観とは果たしていかなるものか? この問いに対する解答は、当日講演会場で私なりに作業療法を構造構成主義することによって仮説的理路として述べてみたい。構造構成主義で切りひらく作業療法の未来は、自立した思考の積みかさねによって担保されるのである。

参考文献
西條剛央: 構造構成主義とは何か, 次世代人間科学の原理. 北大路書房, 2005
京極真: 現代医療で克服すべき課題とは?. 看護学雑誌72(4), 340-344, 2008
京極真:「方法」を整備する,「関心相関的本質観取」の定式化.看護学雑誌72(6),530-534,2008
京極真: 現代医療の根本問題の終焉に向けて. 看護学雑誌73(5), 86-91, 2009

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