【講義資料】アセスメントと構造構成主義

1.信念対立解明アプローチ(構造構成的医療)

目的:臨床現場で生じた信念対立を克服すること。

信念とは、自分の自由な意志を超えて生じてくる確信ことである。

信念対立は、疑義の余地なき確信が矛盾したときに生じる。

信念対立は個人の問題であると同時に、社会の問題でもあるため、いったん克服しても再燃する可能性をはらむ。

信念対立解明アプローチは、信念をいったん反故にしたり、信念間の回路を構築することによって、この問題を克服しようとする。

本日のお題は、信念対立解明アプローチのコロラリーのひとつ。

2.アセスメントをめぐる信念対立

アセスメントとは最良の介入を提供するために、クライエントの利点と問題点を調べ、介入過程をモニタリングし、介入成果を判定することである。

客観的アセスメント(構成的評価)・・・実施手続きが記されたマニュアルにしたがって、現象を数量化して示す方法である。

  • 例・・・ADLや症状などの検査結果

主観的アセスメント(非構成的評価)・・・日頃の何気ない観察や、日常の会話による。現象を日常の言葉で表現する方法である。

  • 例・・・病棟での様子、不安や苦痛などの語り

客観的アセスメントと主観的アセスメントは本来的に補完関係のはずだが、特にクライエントの変化(介入成果)について多くの人が納得できるように示すことが求められるため、「客観的アセスメントのほうが主観的アセスメントよりも価値がある」というヒエラルキー構造が生まれる

より納得を得られやすいのは、どちらでしょうか?

  • 脳血管障害をもつクライエントにADL訓練を行ったところ、FIM総合得点で初回評価で72/126(運動項目45点、認知項目27点)だったのが、再評価で108/126(運動項目75点、認知項目33点)に改善した。つまり、セルフケア、排泄、移乗、移動、コミュニケーション、社会認識のほとんどが「部分介護」レベルから「自立」レベルに変化した。クライエントのADLは改善したと考えられる。
  • 脳血管障害をもつクライエントにADL訓練を行ったら、初回評価に比べて再評価では、セルフケア、排泄、移乗、移動、コミュニケーション、社会認識のADL領域で介護の必要性がほとんどなくなった。クライエントのADLは改善したと考えられる。

「客観的アセスメント>主観的アセスメント」というヒエラルキーは、客観的アセスメントは信頼できる変化を示すが、主観的アセスメントは信頼できる変化を示さない、という認識がマジョリティーになっている。

しかし、臨床現場は客観的アセスメントの適用が難しいケースも少なくない。そのときは、主観的アセスメントに頼らざるをえない。「客観的アセスメント>主観的アセスメント」というヒエラルキーを前提に、主観的アセスメントでクライエントの変化を示すことになるため、「当てにならない結果だ」、「その結果は信頼できない」、「効果があったとは言えない」などの批判にさらされることになる。アセスメントの信念対立は「客観的アセスメント>主観的アセスメント」というヒエラルキーのもとで生みだされる評価や介入に関わる批判や葛藤として経験される。

3.構造構成主義によって切り開かれたアセスメントの考え方

構造構成主義の使い方は多様である。今回はまず、アセスメントの信念対立を反故にするために、「客観的アセスメントは確かである」という確信の成立を支える諸条件を内省するところからはじめた。つまり、構造構成主義の原理的思考法である哲学的構造構成を遂行した。

すると、「客観的アセスメントは確かである」という確信は、(1)統計学を使って研究開発されちるから、評価結果の信頼性、妥当性が確率論的に担保されている、(2)現象の数量化によって主観の恣意的な思いこみを排除できる、(3)これまで受けてきた教育から「量的研究=現象の客観化」という知識がすりこまれている、などの諸条件によって支えられていると考えられた。

次に、これらの諸条件は、多くの人が論理的に考えれば、了解できるような作りになっているかどうか、を哲学的構造構成によって検討した。すると(1)はそれが成立するには「帰納」が必要であるため、どうやっても循環論法に陥ること、(2)は数量化で主観を排除できると判断しているのが当の主観であるため、そう主張することはできないこと、(3)教育によって得られた知識の正当性を知るすべが、私たちにはないこと、などから、論理的に考えれば了解できるような作りになっていないと結論づけられた。

さらに、「主観的アセスメントは確かでない」という確信の成立を支える諸条件を検討したところ、(1)変化を示す事実が省略されている、(2)文章のまとまりが悪い、(3)概念が不明瞭である、(4)曖昧な印象を与える、(5)評価者の視点がわからない、などが明らかになった。逆に、主観的アセスメントでも、「主観的アセスメントは確かでない」という確信の成立を支える諸条件を埋めるようにして書かれたものは、「確かにクライエントは変化する」という確信を成立させる可能性が示唆された。

以上をまとめれば、構造構成主義によって切り開かれたアセスメントの考え方は、次のようになる。

  • アセスメントの信念対立は、客観的アセスメントと主観的アセスメントから到来する「納得の差」から起こっている。だから、アセスメントは、信頼できる、当てにできる、確かだと思う、という確信がポイントになる。
  • ところで、広く共有されている「客観的アセスメントは確かである」という信念は、絶対に正しいものではない。なぜなら、その信念を支える諸条件は、とことん考えていけば原理的に行きつまるから。
  • 次に、「主観的アセスメントは確かでない」という信念もまた、絶対に正しいものではない。特定の条件のもとで、「確かである」「確かでない」という確信の成立が起こりうるから。
  • したがって、「客観的アセスメント>主観的アセスメント」というヒエラルキーは錯覚である、ということになる。おおぜいが「信頼できる」と確信しうる変化の評価結果を提示できるのであれば、客観的アセスメントと主観的アセスメントのどちらでもよい。

この錯覚に陥らないようにするためには、主観的アセスメントでクライエントの変化を評価したときに、おおぜいのなかで「この評価結果ならクライエントは変化したと言える」という納得の確信が成立するような諸条件を明らかにし、それを満たすように評価結果を示していけばよいのではないか。

だって、客観的アセスメントはさしあたり、おおぜいに信頼されているから。そう考えて研究開発したのが「4条件メソッド」である。

4.構造構成主義によって原理的に基礎づけられた「4条件メソッド」とその可能性

4条件メソッドとは主観的アセスメント(非構成的評価)でクライエントの変化をとらえた結果を端的に記述し、吟味するための技術である。あるいは、4条件メソッドは、多くの評価結果を前提にしたうえで、他人と共有する必要のある変化を、おおぜいから信頼されるよう慎重に伝える技術ともいえる。

4条件メソッドの原型は、博士論文で明らかになった主観的アセスメントの「確かさ」の感度を支える4条件にある。4条件メソッドは、それを構造構成主義によって原理的に基礎づけなおした。なお、ここでいう確かさとは、当てにできる、信頼できるなどの感覚のことである。

4条件とは?

  • 条件1・・・評価者の想定した暗黙の前提を、第三者が共有しやすい。
  • 条件2・・・提示された事実は面接や観察から直接得られたもので、作業遂行を通して変化が認められる。
  • 条件3・・・事実の表記は省略が少なく、概念が明確である。
  • 条件4・・・判断は作業有能性に焦点を当てており、論理的に適正で明瞭である。


これまでの研究から、主観的アセスメント(非構成的評価)でクライエントの変化をとらえた評価結果が、この4条件を満たして文章化されていれば、多くの作業療法士がその内容に同意することが確認されている。他方、主観的アセスメント(非構成的評価)によってクライエントの変化を示した評価結果の文章から、4条件が1つでも欠けると、多くお作業療法士が内容の確かさに迷ったり、同意しなくなることも確認されている。この4条件は主観的アセスメント(非構成的評価)による評価結果の確かさに対する作業療法士の「確信」の成立を、ギリギリのところで支える「可能性の諸条件」である。

ただし、4条件メソッドには問題点もある。たとえば、4条件が可能性の諸条件であるため、丁寧に4条件を満たしても、一部の人に「信頼できない評価結果だ」という確信が到来する余地がある。さらに言えば、4条件メソッドは作業療法士のための新技術であるため、他職種にも妥当するかどうかは「謎」である。

しかし、客観的アセスメントを使用しなくても信頼される変化の評価結果を示したり、吟味できるというアドバンテージがある。また、4条件メソッドには吟味法と記述法のみで、実施法がないため、アセスメントの自由度を高める利点がある。これらのアドバンテージに技術の革新性を見いだすか、足りない点を嘆くか。僕は前者に賭け、破壊的イノベーションの実践として、この技術を提案している。

4条件メソッドの使い方(4条件吟味法を例に)
以下の評価結果を読み、「確かな評価結果だ」と思うか、「確かな評価結果ではない」と思うか。考えてみてください。

  • クライエントは、脳血管障害を患う前は主婦をしており、料理を作ることが好きだった。しかし、障害を患って以降、「いままでのようにうまくできないだろうから料理はしない」と言っていた。ところが、もっといろいろな料理を作ってみたいと、具体的なメニューを提案するようになった。作業療法士は、料理がうまくできたという成功体験によって、再び料理に挑戦しようという気持ちが出てきたと判断した。
  • 慢性期の脳血管障害をもつクライエントは、作業療法士が病棟の食堂ホールで食事することをうながすと、それに対してかたくなに拒否していた。作業療法士はクライエントをよく理解し、セラピーに協力してもらえるようにするために、クライエント自身の語りを重視していくことにした。すると、クライエントは作業療法士のうながしに対して拒否することがなくなった。作業療法士とクライエントのあいだで信頼関係が生まれつつあると判断した。

上記の例で示した評価結果に対して「科学的じゃない」「エビデンスとして使えない」という批判を受けることがある。しかし、構造構成的エビデンスに基づいた実践(SCEBP)という新EBMが研究開発されており、それによれば上記のような評価結果の科学性、エビデンス性も原則平等に担保できる。

5.看護アセスメントにおける展開

最善の看護を提供するうえで、アセスメントは大切になると思われる。看護においても、アセスメントは信頼できないよりも、信頼できるほうがよいはず。現状でも、おおぜいが信頼するであろう客観的アセスメントは、いまのまま頑張ってください。問題は、主観的アセスメントでおおぜいから信頼を得るにはどうすればいいか、という点ではないか。

構造構成主義は、信念の成立を支える諸条件を解明することによって、自由な観察と面接による主観的アセスメントでも、客観的アセスメントと同様に信頼を得る技術の開発を後押ししてくれる可能性を開いている。たとえば、これまで数量化が困難であろう看護ケアの効果を、おおぜいが「確かに効果があったぞ!」と確信できるような諸条件として取り出せれば、新技法の開発にいたるかもしれない。

そうした新技術は、看護師がアセスメントの信念対立に陥りにくくなることを、後押ししてくれると考えられる。

6.参考文献

(1)書籍
京極 真 2011(予定) 信念対立解明アプローチとは何か(仮題) 誠信書房
京極 真 2011(予定) 構造構成的医療とは何か(仮題) 新曜社
京極 真 2010 作業療法士のための非構成的評価トレーニングブック 4条件メソッド 誠信書房
石井良和,京極 真,長雄眞一郎(編) 2010 精神障害領域の作業療法-クリニカル作業療法シリーズ.中央法規出版
西條剛央 2009 JNNスペシャル 看護研究で迷わないための超入門講座 研究以前のモンダイ 医学書院
西條剛央 2005 構造構成主義とは何か 次世代人間科学の原理 北大路書房

(2)論文
京極 真,山田 孝,小林法一 2009 良質な非構成的評価結果を持つ教材の作成.日本保健科学学会誌11(4),225-235
京極 真,山田 孝,小林法一 2009 長期臨床実習は非構成的評価で得られた評価結果の確かさを判断する作業療法学生の能力を改善するか?.作業療法28(3),277-285
京極 真 2008 方法概念としてのエビデンス EBMからEBPへ 看護学雑誌,72(7),608-613.
京極 真 2008 「エビデンスの科学論問題」とは何か 看護学雑,72(8),710-714.
京極 真 2008 「エビデンスの一般化可能性問題」とは何か 看護学雑誌,72(9),814-818.
京極 真 2008 すべてのエビデンスの科学性を基礎づける 看護学雑誌,72(10),910-914.
京極 真 2008 すべてのエビデンスの一般化可能性を基礎づける 看護学雑誌,72(11),988-992.
京極 真 2008 新しいEBM――SCEBPがもたらす可能性 看護学雑誌,72(12) ,1070-1074.
京極 真,山田 孝,小林法一 2007 非構成的評価法教育プログラムの開発と実践の有効性.作業行動研究11(1),30-37
京極 真 2007 構造構成的エビデンスに基づいたリハビリテーション 構造構成主義研究,1,28-40.
京極 真,山田 孝 2006 非構成的評価法の確かさに影響する条件とは何か.作業療法25(3),200-210
京極 真 2006 EBR(evidence-based rehabilitation)におけるエビデンスの科学論 構造構成主義アプローチ 総合リハビリテーション,34(5), 473-478
京極 真 2006 エビデンスに基づいたリハビリテーションの展開 構造構成主義の立場から リハビリテーション科学ジャーナル,2,1-9

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