書評『人を助けるすんごい仕組み』(西條剛央、ダイヤモンド社)




西條さんから「ブログで書評を」というメールがあったので、本当はどっかの雑誌で書こうかと思っていたけど、こちらで書いちゃいます。

ブログのほうが、多くの人に読んでもらえるだろうし。

なお、『人を助けるすんごい仕組み』の印税全額と売上の一部は支援金になります。
被災者支援に関心のある方はご購入の検討をお願いします。

***書評***

最近、Scott E. Pageの"The difference"という本を読みました。

この本でPageは、多様性は個々人の能力の集合を超える、という原則を数理的に示しました。

そして、困難な問題の解決にあたっては、多様性を活かした集団的オーバーアチーブが役に立つと主張しました。

僕の専門であるヘルスケア領域では、この集団的オーバーアチーブの必要性が周知され、チーム医療という切り口でその実質化を図ろうとしてきました。




現代医療の問題はとても複雑で、個人の能力では対応しきれないことがあるからです。

だけど、集団的オーバーアチーブはいくつかの要因によって集団的アンダーアチーブへと転嫁することがあります。

僕の考えでは、その要因のひとつが「信念対立」です。

信念対立は、多様性を活かそうとすると、多様であるがゆえに摩擦を発生させ、結果として一様性へとシフトチェンジさせる問題です。

つまりハイパフォーマンスが実現する条件である多様性という特徴は、集団的アンダーアチーブを引き起こす材料にもなりえるのです。

ヘルスケア領域はいま、信念対立によって集団的オーバーアチーブができないことに悩んでいるところがあります。

さて、本書『人を助けるすんごい仕組み』では、1000年に一度と言われる有事におけるボランティア活動で、集団的オーバーアチーブを実現していくための理論と実践が示されているように、僕には読めました。

つまり本書は、(西條さん自身も含めて)誰に指揮されているわけではないのだけども、そこに関わった人たちが個人の能力を超えたパフォーマンスを発揮する状態はいかに創りだせたのか、そういう問いに答える内容だと解釈できたのです。

そういう状態を構築し続けるために、著者が活用した理論は非常にシンプルです。

それは構造構成主義の「方法の原理」から応用したもので、方法の有効性は(1)目的と(2)状況に応じて決まる、というものです。

元来、構造構成主義は原理の学であり、信念対立克服の原理、上述の方法の原理などさまざまな理路が組み込まれています。

西條さんは筆舌しがたい過酷な状況で、多くの人たちの希望と悲嘆に耳を傾けながら、「方法の原理」を中心に構造構成主義をフル活用して「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を押し進めていきます。

本書は「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の活動紹介を通して、ボランティア活動を志す多種多様な人びとの集団的オーバーアチーブを支えていくノウハウが、リアルに描かれているのです。

では構造構成主義を理解したら、誰でも西條さんやふんばろうのスタッフ(被災者/非被災者を含む)の方々のようにできるのか、というと、たぶん無理だろうと思いました。

僕はおそらく構造構成主義に詳しいほうだと思うけども、西條さんと同様の状況におかれたとしても同じように振るまえないと思ったからです。

西條さんとふんばろうのスタッフの方々の行動を導いているのは、構造構成主義という原理だけではなく、おそらく愛です。

とてもチープな表現ですが、それ以外に表現できる言葉を、僕はさしあたりもっていません。

愛と一言で表しても、自己愛、他者愛、親類愛、郷土愛、人類愛、飯島愛など、いろいろ表現できると思うけど、そういう表現によって言い当てられる感情がきっとものすごく深いからこそ、尋常でないリソースを投入し続けて、彼ら/彼女らは「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を展開できたのだろう、と思います。

というわけで、本書は賞賛してもし過ぎではないぐらいの内容なのだけども、数回読んだだけではよくわからないところが、いくつかありました。

僕は学者なので、今回の社会運動の意味を吟味する必要があるし、何よりも褒めてばかりだと気持ち悪いと思うので、2つだけ書いておきます(たぶん著者は織り込み済みだと思うけど)。

1つは方法の原理だけども、方法の有効性は(1)目的と(2)状況に応じて決まる、というのはよくわかります。

だけども、創りだした方法が有効かどうかは、実際にやってみないとわからないと思います。

西條さんは直感の人なので、目的と状況をしっかり把握すれば直感的に「いける!」とわかるのかもしれません。

だけど、おそらく普通の人は、それがわからないから躊躇するのではないでしょうか。

本書で示された組織運営のノウハウをさらに一般化するには、今後、もうすこし状況が落ちついたらこの辺りの(おそらく直感的な)やり方も含めて方法化したほうがいいように思いました。

(ちなみに僕は、信念対立解明アプローチの「実践の原理」で「実践の有効性は確率的に決まる。実践の有効性はやってみなくちゃわからない」という点を強調し、事後的に判断するしかないという理路を展開しました。)

それともうひとつ、よくわからなかったところ。

西條さんは本書のp180で「僕らは、横のラインで動いているんです」と書いていますが、p81では「トップの携帯電話に直接電話できるようにしたほうがいい」とも書いています。

つまり実際には、縦のラインも活用しているように読めたのです。

方法の原理によれば、方法の有効性は(1)目的と(2)状況に応じて決まるわけだから、実のところ、縦のラインvs横のラインというように分けて考える必要はないように思うのですよね。

もっと柔軟であってよい。

そして、西條さんはきっと実際にはそうしてきたはずです(でなきゃ本書で書かれたようなことはできない)。

状況を踏まえたうえで、目的を達成するためなら縦のラインも、横のラインも最大限活用する、というのが、おそらく西條さんが言いたかったところだろうと推測しますので、そういう論じ方にする必要性を検討したほうがいいのではないか、と思いました(すでに検討済みかもだけど)。

ともあれ、本書はボランティア論としても、組織論としても、哲学の実践論としても、ルポタージュとしても、今後も読み継がれていく名著だと思います。

みなさんもぜひ、本書を通して志の高い人びとの活動にふれください。

それが、日本の希望につながると思います。

本当にあっぱれだよ、西條さん。

***追記その1***

Twitter上で西條さんから、上記の縦のラインと横のラインについて説明を頂きました。

横のラインとは気持ちが契機になってつながった関係性、という意味だということでした。

下記にリンクを貼っておきます。

http://twitter.com/saijotakeo/status/173036019002781696

http://twitter.com/saijotakeo/status/173207040544604160

***追記その2***

さらに、西條さんから方法の原理についてもコメントを頂きました。

『人を助けるすんごい仕組み』の理解に役立つと思うので、それもリンクを貼っておきます。

http://twitter.com/saijotakeo/status/173211860907212800

http://twitter.com/saijotakeo/status/173212914197594112

西條さん、超忙しいのに説明ありがとうございました。