藤田健次さんの修士学位論文要旨:認知症高齢者の日常生活自立度に関する構造モデルの生成





修士学位論文要旨

(通信制)保健科学研究科
学生番号 M971003
氏名 藤田 健次

認知症高齢者の日常生活自立度に関する構造モデルの生成

【背景と目的】
 
我が国では20004月に介護保険制度が開始された.しかし,認知症高齢者の日常生活自立度(以下,認知症自立度)の判断が医師および認定調査員等の関係者間で判断が乖離する問題がたびたび指摘された.ところが,その問題がなぜ生じ,どのような工夫で対処しているのか,という研究は未実施だった.本研究の目的は,<研究1>認知症自立度に関する医師,認定調査員,認知症高齢者家族(以下,三者)が判断を共通させるために行う工夫(以下,共通させる工夫)と判断が共通しない理由(以下,共通しない理由)をモデル化すること,<研究2>研究1で得られたモデルが,理論的飽和に達しているか否かを検証することとした.また研究2では,研究1の結果が介護支援専門員にも妥当する知見を含んでいるかも検討した.

【対象と方法】

 本研究はミックスメソッドを用いた.研究1の対象者は三者各10名(計30名)とし,個別対面的に半構造化インタビューを行った.結果は構造構成的質的研究法を参考に分析し,モデルを作成した.研究2の対象者は介護支援専門員100名で,研究1のモデルに基づくアンケート(2件法)を作成し,百分率で解答の一致の程度を判断し,アンケートに該当しない事柄については自由記載してもらった.

【結果】

 研究1では,共通させる工夫が【判断基準を調整する】,【情報の信頼性を高める】,【コミュニケーションを円滑にする】,【情報を配慮して伝える】といった4つのカテゴリーと11の概念,共通しない理由が【認知症に関する共通理解が不足している】,【介護の大変さに関する受け止め方が違う】,【判断するために十分な情報量を得られない】,【分かりあうために必要な条件が整わない】,【マニュアルが不十分で逸脱しやすい】,【認知症高齢者と家族は人的・物的影響を受ける】といった6つのカテゴリーと20の概念が得られ,モデル化された.研究2では,介護支援専門員の経験は研究1のモデルですべて説明できることが明らかになり,研究1の結果は理論的飽和の可能性を有すると判断された.また介護支援専門員の70%以上が一致した概念は,共通させる工夫で11項目中7項目,共通しない理由で20項目中11項目だった.

【考察】

本研究では,認知症自立度の判断を共通させる工夫と判断が共通しない理由を明らかにすることができた.共通させる工夫では,三者はお互いが正確かつ豊富な情報を伝え合う努力がなされていると考えられた.しかし,工夫が発見された一方で共通しない理由から問題点も見いだされた.その内容は,診察や認定調査の場面での聞き方や態度が影響を与え,判断に必要な情報を得られにくい状況を作ることが明らかになった.また,立場や知識および介護に対する受け止め方の違う関係者が,お互い分かりあう機会が少なく,時間も限られ,信頼関係が構築されないまま判断をしていた.さらに,医師や認定調査員が判断基準を守らない理由などから,関係者間で見解が一致しない状態が引き起こされていた.つまり,三者間で判断の乖離を埋める努力が行われているものの,共通させる工夫だけでは現状の乖離を埋められないことが明らかになった.

 そうした現状を変えるためには、共通させる工夫以外の対策が必要であると考えられた.三者が個々に行っている工夫から脱却し,認知症に関する知識を共有し,マニュアルについて確認しあい,診察や認定調査の場面に臨む.加えて,共通の指標で他の関係者も含めて確認する工夫の実現が現場レベルで取り組む内容として考えられた.

 加えて、研究1の結果は、研究2によって理論的飽和の可能性を有すると考えられた.さらに,共通させる工夫の概念7項目と共通しない理由の概念11項目は,介護支援専門員にも妥当する知見を含んでいると考えられた.共通させる工夫の概念で,介護支援専門員からも賛同を得られたものの多くは,診察や調査におけるコミュニケーションに関する内容であった.また,共通させる工夫で一致率70%未満の項目は,介護支援専門員が直接見聞きする機会の少なさや,基本遵守事項に抵触の恐れがある工夫,および事業所レベルでの工夫であり,三者とは異なる結果となった.同様に,共通しない理由も,介護支援専門員のマニュアルを順守した判断によるものや,三者だけに関係する理由のため介護支援専門員には関係が少ないものと考えられた.

今後の研究課題として,異なる地域で働く三者を対象に追試を行なう必要があると考えられた.また,得られた結果を基にした認知症自立度判断基準を作成し,三者の判断が共通しやすくなるような教育プログラムの研究開発を行なう必要性が考えられた.