新刊『医療関係者のためのトラブル対応術:信念対立解明アプローチ』

『医療関係者のためのトラブル対応術:信念対立解明アプローチ』が発売されました。

以下に校正前の「はじめに」を貼り付けておきます。

面白いですよ。


はじめに


 本書は、下記のような人々に元気になってもらいたくて書き下ろしました。
  • 「医師として看護師と協力しあう必要があるのはわかっているけど、あのチーフ看護師のふてぶてしい態度に腹が立ってしょうがないです。職種が違ってもチームメンバーなんだから、もっと相手に気遣いする必要があると思いませんか。こんな状態が続いたらチームとしてやっていけないですよ」(32歳、医師)
  • 「医師に相談すると『看護で判断してくれ』と怒られるので、看護の方で判断しながらケアしていたら『勝手に判断するな』と怒られるんです。結局、相談してもしなくても怒られるので、医師の顔色をうかがいながら実践する日々が続いているのでとてもストレスでつらいです。どうしたらいいのか悩んでいます」(45歳、看護師)
  • 「Bさんは家族から見放され、告知もDNRもされなかったため、亡くなる直前まで医療的介入が行われました。IVHを行おうとしても、やせ細っているからなかなか通らず1時間近くかけて挿入したんですが、その翌日には亡くなりました。もっと他の対応がなかったのかと思うと苦しいです」(38歳、作業療法士)
  • 「私はAさんの場合、歩行能力を高めるためには、平行棒内で歩行訓練したり、ADL訓練を通して歩行できるようにしたりする必要があると思いました。しかし彼は、深部の筋をダイレクトに鍛える必要があると偉そうに言うんですよ。もっと全体を見なければならないのに、何もわかってないんじゃないかと思います」(26歳、理学療法士)
  • 「メディカルスタッフと患者が恋愛関係に陥るなんて、倫理的に許されることではありません。なのにあの先生は、担当の患者さんとこっそりつきあっているみたいなんですよね。スタッフのあいだで噂になっています。ハラスメント防止委員会に報告して、この病院で働けなくしてやろうと考えています」(27歳、臨床心理士)
  • 「先生は『治療方針は相談しながら決めましょう』というけど、素人の意見を聞きながら治療しても大丈夫なのかとても不安です。自分の病気のことはいろいろ調べたから理解しているつもりですけど、やっぱ私たち一般人にはどう判断したらいいかわからないです。先生が正しいと思う治療を行うべきではないですかね」(61歳、患者)



 近年、こうした体験は「信念対立」と呼ばれています。信念対立とは、人人の強い思い込み(疑義の余地なき確信(認識/行為))によって引きおこされるトラブルの総称です。上記の例で言うと、医師はチームメンバー同士で配慮が必要だと考えていますが、看護師が配慮を感じない態度を取るために苛立っています。これは、医師の「チームメンバーへの配慮は当たり前だ」という考えと、看護師の振るまいが異なるために生じた信念対立であると理解できます。


 これまでの研究から、人人は信念対立によってネガティブな感情(怒り、不安、葛藤、悲しみ、嫉妬、悪意、不満、ストレスなど)を体験するとわかっています。そして、信念対立の蓄積によって、燃え尽きたり、失望したり、煩悶したり、逃避したりする事態に陥っていることも明らかになっています。その結果、医療に関わる人人は、治療関係の悪化、医療に対する不信感の増大、職務の質の低下、チーム医療の機能不全、医療過誤・医療事故などの問題に遭遇しています。


 そのため、多くの人が信念対立に対して何らかの対処を試みています。例えば、人人は信念対立に陥ると、患者同士で相談したり、上司や同僚に仲裁してもらったり、倫理委員会にかけあったり、信念対立する者同士で話しあったり、我慢したりしています。あるいは、酒を飲んだり、遊びに行ったり、スポーツしたりして、気分転換している人もいます。ところが、いろんな対処を行っている割には、実のところ多くの人がこの問題にうまく処理できていません。


 そうした現状を打破するために、私は信念対立の対処に特化した「信念対立解明アプローチ」という理論を体系化しました。信念対立を克服するためには、物事を根源から考える必要があります。信念対立解明アプローチには、そのためのアイデアがギュッとつめこまれています。読者は、本書を通して、信念対立解明アプローチの活用の仕方、研究動向、理論的エッセンスが理解できると思います。本書が少しでも読者の皆さんが体験する信念対立の解消に役立つようであれば幸いです。


 ではさっそく本題に入りましょうか。

 ※本書で登場する事例はすべて、個人や組織の特定を防ぐため、大幅に加筆修正しています