理想と現実のギャップはどう克服するか



実践に関与しようとする理論家は、ある難題につきあたることがあります。

それは、実践家からの「理想と現実は違う」というフィードバックです。

これの要点は、実践家の立場からすると、
  • 理論研究者の主張は、考える限りもっとも妥当であろうということはわかる
  • しかし、実際にそうするには様々なハードルがある
  • したがって、実現するのは難しいという結論になる
で表せます。

これに対して、理論家は実践家がその気になってくれるように、
  • 「理論が必要な理由」を明確にし、問題意識を共有する
  • 理論がいかに役立つかを強調する
  • 理論を実現するために必要な道具をいろいろ提供する
  • 勉強する機会を提供する or その機会を増やす
などの対策を立てることが多いです。

でも、理論家のこの手の対策に欠けていると感じることが、ひとつあります。

結論を言うと、それは実践家の「現象の共有を徹底する」です。

ぼくが知りうる限りでは、「理想と現実は違う」というフィードバックが生じる場合、「あなた(理論家)の主張は考える限り最善だと思うものの、私たち(実践家)が経験している出来事とはどこかズレている」と感じているケースがほとんどです。

つまり、理論家の主張が、実践家に対して

  • 現象が共有できていない
  • 認識している事実にギャップがある
  • 現象そのものが違う
という感覚を与えている場合に、「理想と現実は違う」という言質を引き出してしまうことがあるのです。


かりに、実践家と理論家のあいだで認識している現象にギャップがあるならば、理論家が採用した方がよいストラテジーは問題意識の共有、有用性の強調、使用する道具の準備などではなく、実践家に立ち現れている現象の共有を徹底することです。

それができると、理論家は実践家の世界観のなかで理論がどう映し出されるのかを把握しやすくなります。

その光景は、理論家の世界観のなかで表れる理論の姿と異なるものでしょう。

この差異に気づくことができれば、理論家は実践家の世界観の内側から「実現できる」と感じられるよう理想を示せるようになります。

そのようにして示された理想は、絵に描いた餅などではなく現に実行できる方法論として機能しはじめることでしょう。

では、実践家の現象の共有は、どーしたらできるか。

一番手っ取り早い方法は、期間限定でもよいから理論家が実践家の仕事を実際に行ってみることです。

外部から観察していた世界とは全く異なる視野が得られるはずです。

でもそれはいろいろ制約があって難しいことが少なくない。

なので、次の方略としては、色んな実践家と交流して内的体験を疑似体験していくことです。

実践家の話を聞くときは、「わたしが当事者(実践家)だったらどう感じるか」という観点を中心にし、共感性を高めておく必要があります。

留意点としては、多くの実践家の話を聞いたからといって、理論家は絶対にわかった気になってはいけません。

「私は多くの実践家と交流を重ねてたくさん学んだ」なんて思っちゃうのもダメです。

理論家が実践家に理想と現実のギャップを感じさせると、理論の実質化が遠のきます。

それは困る。

だって、理論は実践の根本問題を解消するためにあるんですから。

理論家は、実践家の現象を丁寧に共有していきながら、実践を徹底するだけでは到底たどり着けない世界を切り開く努力を重ねましょう。