作業という概念が採用されたワケ


作業療法が成立する前後(100年前ごろ)をふり返ると、この領域における作業(occupation)は、仕事(work)、再教育(reeducation)、再構築(reconstruction)、道徳(moral)、活動(activity)などのさまざまな概念で表現されていました。

例えば、作業療法の原理を示したダントンは作業療法を再構築療法と呼んでいた時期がありました。

名前は同一性を生みますから、自分たちの領域をどう呼称するかは根幹に関わる問題です。

だから当時、作業療法の創始者たちのあいだで、どの概念を使用するかをめぐってかなり激しい議論がありました。

それが最終的に、作業(occupation)という概念で落ちついた理由は何なのでしょうか。

作業療法の歴史を分析した研究では、作業という概念が選ばれた理由のひとつに、この概念が多様な意味をもつために立場が違っても共通言語として機能することがある、と指摘されています(例えば以下の文献)。





上記の文献で指摘されているように、作業という概念は精神、身体、時間、場所などのさまざまな要素を含んでいます。

とても多義的なんです。

だから当時から作業という概念は例えば、、トレーシーのように社会生活に必要な行動という意味で用いたり、マイヤーのように時間の適切な使用という意味で用いたりすることができたわけです。

作業という概念の意味の開放性が、作業療法の多様な実践を可能にしていたのです。

ただこれが混乱の元でした。

概念が多義的と言うことは、悪く言えば曖昧だからです。

なので、作業療法という領域が正式にスタートしてから約8年後には専門職としてのアイデンティティの危機の焔が立ち上がりました。

これは、現代作業療法をいまなお悩ませている信念対立の原型です。

作業という概念の多義性を失わずに厳密に基礎づけるか。

この問いは領域誕生から解消できていないので、作業療法最大の難問のひとつといっても過言ではないでしょう。