作業療法の存在論はどーなってるか


以下の書籍によると、作業療法の哲学的枠組みには、1)存在論、2)認識論、3)価値論があります。



これは上記の書籍の独創と言うよりも、哲学の伝統にそった考え方です。

以下では、本書を参考にしながら作業療法の存在論について簡単に紹介します。

本書において存在論とは、この世界に本当に存在しているのは何かを問うものであり、存在の本質や性質について研究することだ(形而上学)、と説明されています。

本書では存在論について簡単にしか紹介していないのでわかりにくいですけど、その背景をぼくなりに超ざっくり示すと、これはもともと、アリストテレスが第一哲学(形而上学)の主題に存在を設定したことに直接の起源をもちます。

第一哲学では、具体的な事情を存在たらしめる不変で普遍の存在それ自体を探求します。

これ以降、実に膨大な議論が蓄積されていきますが、近代以降の大きな結び目を示せば、デカルトやカントらによって存在論が認識論へと転換したり、フッサールやハイデガーらによって存在が成立する条件の解明が行われたり、分析哲学の流れで論理学的、科学的な解明の土壌にのったり、といろいろ展開しています。

作業療法の哲学的基盤であるプラグマティズムでは、提唱者のチャールズ・パースが存在の究極の根拠を問うような形而上学的存在論に否定的でした。

その代わり、(めっちゃ要約すると)存在の意味は経験によって確かめうることができる、という多元主義的存在論とでも言えるような立場を示し、その後につづくプラグマティズムでも存在論における多元主義が継承されました。

作業療法はプラグマティズムの伝統のなかにありますから、本書でいう「この世界に本当に存在しているのは何か」という問いも多元主義的に受けとる必要があるでしょう。

さて、本書の内容に戻りますけど、ここでいう作業療法の存在論は多元主義的存在論の立場から存在を探求するというよりも、作業療法で存在をどう認識するかという議論に軸足があって、どちらかというと認識論に近い内容になってしまっています。

ともあれ、その要諦はどーなっているでしょうか。




本書では要諦が定式化されているので超ざっくり意訳すると、

  • 絶え間なく変化する人間は、絶え間なく変化する環境と相互交流し、絶え間なく変化する作業で時間を占有し、それによって自身の行動、環境、健康状態を変容する
というものになります。

ちょっと意味プーだと思うので、解説を加えると、作業療法の哲学的基盤であるプラグマティズムでは「経験」という概念を重視しています。

経験とは単一の事柄ではなく、複数の経験がネットワークを形成しており、それ自身が生きているシステムであり、時間を占有しつつ時間とともに流れうるものである、と理解します。

厳密に言うと、(特にジェームスの)プラグマティズムの経験(純粋経験)は人間と環境という二極化した関係構造を超克したもので、上記の定式はそこからやや逸脱したものになっています。

もちろん、プラグマティズムの多元主義的存在論はここでも活きており、その中には時間とともに流れうる経験も多重構造をもっている、という主張もあるぐらいです。

ともあれ、ここで重要なのは、作業療法の存在論では、絶え間なく変化することとして存在をとらえている、という理解です。

そして、その背景にはプラグマティズムの発想があると押さえておきましょう。

さて、作業療法の存在論は上記の定式をベースにさらに議論を深めていきます。

ざっくりまとめると、
  • 人間にとって生命と種の保存に作業が欠かせない
  • 人間の成長と健康は作業によって規定される
  • 人間の精神と身体は作業が統合する
  • 人間の作業は社会構造の形成と発展に必要不可欠である
  • 人間と環境は相互につながっている
  • 人間と環境は完全に調和しているわけでも、環境によって人間の行動が完全に決定されているわけでも、人間が環境を支配しているわけでもない
  • 人間は環境のうちで生きる生物の一種である
  • 作業が行動と環境を引きおこし、変化させる
  • 作業は人間のアイデンティティを形成する
  • 作業は人生に意味と満足を与える
  • 適切な作業によって健康状態に良い影響を与えることができる
  • 作業は個人、社会、世界の状態に影響を与える
  • 作業は生命と種の保存に欠かせないので、作業が適切に行えないと健康状態が悪化したり、幸福感が低下したり、生きること自体が難しくなったりする
といった感じになります。

重要なことは、こーした考え方が作業療法の存在論を基盤に深掘りされているという点であり、作業療法という領域に通底するものであるということです。

存在論とは? 作業療法の存在論とは? と聞かれたら答えられるようにしておきましょう。